Woman with Purpose: Yukako Yamashita

Woman with Purpose: Yukako Yamashita

アート・プロデューサーである山下有佳子さんは、12年前アート業界でのキャリアをスタートしました。サザビーズジャパンでコンテンポラリーアートを担当したのち、2017年から2022年までGinza Six のギャラリー、THE CLUBにてマネージングディレクターを務め、若手アーティストの作品を積極的に紹介しました。そして34歳の若さで、2021年から京都で開催されているアートフェア「Art Collaboration Kyoto (以下ACK)」のプログラムディレクターに着任しました。ACKは「日本と海外」「行政と民間」「美術と異なる分野」などの“コラボレーション”をテーマにした、現代アートに特化した国内最大級のアートフェアです。さらに2020年より京都芸術大学の客員教授に就任しました。

真のWoman with Purpose (目的を持つ女性)である山下さんに、より意味のあるアートフェアとは、日本のコンテンポラリーアーティストについて、そしてアートの世界で活躍する女性として、チャレンジや困難をどのように乗り越えてきたかなどを伺いました。

Photo @ Kaori Nishida

アートへの情熱の原動力は何でしょうか?

純粋にアートが好きなので、どんなに疲れていても、自分が最高だと思うアートに出会うといくらでも走り続けられます。出会う景色や経験、時間も含めての「美」が、私の人生の原動力です。美の基準は人それぞれですが、アートにしてもファッションにしても自分の審美眼に触れる「美」が、情熱を掻き立てる原動力になっています。

2022年より京都のアートフェア、ACKのプログラムディレクターを務められていますね。あるメディアの記事では“より心地よいペースで、より意味のある=slower, more meaningfulなアートフェアを創りたい”と語っていましたが、このように思ったきっかけや考えについて教えてください。

私たちが生きる世界は日に日に、消費主義社会の側面が増し、それによってすべてのものごとの時間の進み方もめまぐるしくなってきています。私自身日々の生活の中でも、充実感とともに、疲れを感じ、コロナで全てが止まった時に、不便の中でも「自分の力で時間を作れる贅沢」を感じました。そこで、自分が心地良いと思える速度で生きられるゆたかさ、という想いを込めて時間の花というACKのキュレトリアルテーマを決めました。私自身、20代後半頃から、毎年アートフェアを見るために世界各国を旅しています。昨年のACKプログラムディレクター就任を経て、アートフェアを見る立場から、開催する立場になりました。THE CLUBでのギャラリストとしての経験、そしてアートを愛する人間として、アートを作る現場、つまりアーティストが作品創りにかける時間の尊さを知っています。だからこそ、その舞台裏にある時間の重みや情熱、パワーを伝えるためにも、適切な時間軸をつくることは大事なテーマだと思っています。作品一つ一つの重みを捉える重要性を感じていただくためにも、それを受け止める鑑賞者が心地よく作品を楽しむ環境が必要だと思い、slower, more meaningfulという概念を大切にしました。

アート界で尊敬する女性はどなたですか?

自分を愛しながらも、社会への貢献、そして、他者に与える、利他の心を持つ女性に憧れます。ペギー・グッゲンハイムは、パトロナージュの心があり、尊敬する女性の一人です。

注目すべき日本の新進気鋭のアーティストがいれば教えてください。

技術力、コンセプト、個性この3つを兼ね備え、奥深さを感じさせるアーティストに注目しています。
小瀬真由子、Ernst Yohji Jaeger、石塚源太など。

2017~2022年、銀座のTHE CLUBのマネージングディレクターに就任され、このギャラリーを通して日本のアートシーンをより国際的にしたいとおっしゃっていましたが、実際にTHE CLUBのマネージングディレクターを務められた感想と、そこで生まれたシナジーについてお聞かせください。

20代最後にTHE CLUBのマネージングディレクターに就任し、サザビーズという組織から離れ、新規ビジネスをやっていく環境に身を置いたことは、とても学びのあるターニングポイントとなりました。自らヴィジョンを掲げ、そこに責任を持ち、周りからの信頼を築きあげるという、私がどんな仕事をするときにも大切にしているマインドセットができたのは、まさにこの時期です。
私自身が20代のときに初めて海外でギャラリーを訪れ、その国際性と多様性に圧倒されたように、次の世代の日本のアート界を担っていく若者たちにも、多様なアートに触れる機会を与えたいと思いました。そして、若ければ若いほどなかなか自分で海外に行くのはハードルが高い。だからこそ日本のアート界自体の国際性を高め、日本にいながらにして多様なそしてグローバル水準の質の高いアートに触れられるような環境を作りたいと考えてTHE CLUBを主宰していました。この気持ちは今も変わらず、ACKや京都市の戦略アドバイザーなど、行政や自治体の成長戦略にも関わることで、より広い視野で邁進する日々です。
またTHE CLUBを通じて文字通り、アートを愛する人たちのCLUB(コミュニティ)ができました。5年かけて、共に協力し合える人たちのコミュニティを築けたことは誇りですし、このコミュニティは、今、違った立場でアートに携わるなかでも変わらず生きています。

東洋と西洋のアートの世界では、アートの受容に大きな違いがあると思いますか?

アートが文化である以上、地域によって大きな違いはないと思います。どこの世界にも美術館はありますし、文化がない国はありません。ただアートに対する趣味嗜好、つまりテイストが違うという点は挙げられます。西洋はアートを見せる文化であり、東洋の審美眼はいわば「秘すれば花」のように、美しいものは隠されているからこそ美しいもしくは価値があるという概念があり、小さくとも価値があるアートを大切にする傾向はあります。

山下さんのご出身地でもある京都についてお伺いします。国際的な芸術都市としての京都の可能性、ポテンシャルを教えてください。

世界的に見ても、圧倒的な文化力と奥深い歴史があるところが魅力的です。近年では芸術大学も増え、アート教育の水準が高い大学に、次世代を担う若いアーティストが増えてきたのも心強く、メセナ活動、アーティストや文化支援に注力している人も数多くいます。そして最近では文化庁も京都に移転し、官民共同作業で、京都を国際的な芸術都市に築き上げていける希望を感じています。

アートに携わる女性として、ファッションとアートの接点はどこにあるとお考えですか?

美、技術力、個性そしてわたしたちの心をゆたかにする点。

最も誇りに思う行動や決断は何ですか?

自分のご機嫌は自分でとる。ということを小さいときからよく祖母に言われて育ったのですが、自分で考えて、リスクをとってでも行動に移す、そして自分の決断には責任を持ち、笑顔でいることを、どんなときも大事にしています。思うと、道なき道を自分で切り開くことが私の人生では常に続いているように思います。海外に縁遠い家庭環境に生まれながらも、突然海外に行きたいと言い出したときも、サザビーズジャパンに当時初めて新卒で入社したときも、未経験だったギャラリストという仕事にも関わらず新規事業としてギャラリーを立ち上げたときも。ものすごく怖いですが、勇気を出してジャンプし、結果的に周りの方たちも賛同してくれるような結果をもたらせた時には誇りに感じられます。アートフェアのプログラムディレクターの役職も、誰かが教えてくれるという環境ではありません。自分で自分の世界を切り開くことを大切にしています。

アクリスはWoman with Purposeをサーポートする、ということをブランドのバリューとして掲げていますが、Purpose(目的)という言葉は あなたにとってどのような意味がありますか?

Purposeという言葉を私は「意志」と捉えています。その意思に社会性が伴うこと、そしてそれを人と共有し、利他の心を育むことが大切だと思っています。

女性としてアート・プロデューサーという職業を務めるにあたり、困難はありますか。そしてそれをどのように乗り越えていますか。山下さんがアート・プロデューサーとして活躍することで、より若い世代のアーティスト、そして(特に女性で)キュレーターやプロデューサーを目指す方々にどのようなメッセージやアドバイスを発信したいですか。

過去に、「若さ」や「女性」であることに対する、日本社会独特のステレオタイプな考え方に直面し、働きづらい、難しいと思うことはありました。今35歳になり、やっと自分なりに自分の生き方を心地よく感じられるようになってきています。私が好きな言葉にやまない雨はないというものがあります。若い世代のアーティストの方も、私と同じようにアートビジネスを志す方も、若さゆえの葛藤は必ずあると思いますが、心地よく受け止められる必然のタイミングが必ずどこかで訪れると思います。人生はマラソンなので、来たるべきその必然のタイミングを信じて希望を持って、焦らず長期的に、とにかく続けてください。そして、私が困難を乗り越えられるのは、同志のおかげです。歳を重ねるごとに、自分の中で信頼し、支えあえる仲間を作っていく大切さを痛感していますし、私にとってこの同志のコミュニティは宝物です。

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